油切れ

またしても雨。
本格的な梅雨だ。
梅雨大嫌い。

たった二日雨が続くだけで、このあと灼熱の夏が訪れる自然の摂理に疑問を持ってしまう。
本当に夏がくるのだろうか?
すぐに秋が来て、冬が来るんだ。
また、セーターを着こんで、冷たい風を顔に感じながら少し哀しい気持ちで夜道を歩いたりするんだ、と。
うむ。
頭の中もカビが生え始めたのかもしれない。

「で、君はこの1年どうするんだい?人生変えるならぎりぎりだよ」
「あ、伊丹さん。最近愛読させてもらってます、『ヨーロッパ退屈日記』面白かったです。」
「そう。ありがと。あれはねオレが21歳のときにデザイナーから俳優に転職して、国際俳優としてヨーロッパに飛び出したときの体験記だからね。若書きだけど結構いけるだろう」
「いや〜、まじ面白いっすよ。伊丹さんはスタイルありますよね」
「そう。ありがと。で、どうすんの?」
「いや〜、なんとも・・・」
「おいおい答えになってないよ、せっかく聞いてあげてるのに。人生の先輩からアドバイス貰える機会は限られてるんだからさ、なんでも聞いて」
「転換期だってのはわかってるんですよ。このままリーマン続けてもキャリア的にもサラリー的にも未来は明るくないし、ガツンとこないんですよね。まぁ、勉強でもして転職を目指そうかと・・・」
「そう。なんか、ずれてるね。いや、君みたいなのが多数派なんだろうけど、ずれてるよね。明確なものが何もないじゃない。流され流されパラダイスにつかないかなって考えてない?」
「いや、それは最高ですが」
「そう。やはりずれてるね。たとえパラダイスに着いたとしても楽しくない未来かもよ。どう、いま現在を楽しんでる?」
「いや〜、楽しいこともありますけど、主体的に楽しんでるとは言い切れないっすね」
「そう。もったいないよね。オレの親父は「人生の目的は何ですか?」と聞かれて、「遊ぶことです」と言い切ったんだよ。まあ、映画監督という仕事が真剣な遊びであるという環境にはあったんだけど。真剣に生きろなんてことは言わないけど、遊びぐらいは真剣にやってみろよ」
「あの、若干話がすれているような・・・」
「そう。だからさあ、ガツンときてないのでしょ。だったら何がガツンとくるか真剣八方向でやってみればいいんじゃないの。なんでもいいのよ」
「まあ、そうですが・・・」
「そう。じゃ、最後にひとつだけアドバイスしてあげるよ。オレの車選びの文章読んだ?」
「読みました。基準をもてってやつですよね」
「そう。例えば二人乗りのオープンスポーツカーを買うなら広い荷台や大人数でのお出かけは我慢せざるを得ない。逆に、ワンボックスを買うならキビキビといた操作性能やオープンの開放感は我慢せざるを得ない。残念なことに、なにかを得るには何かを犠牲にしなきゃならないんだな。だからって、それが悪いってことじゃないぞ。大事なのは自分の基準を持つことだ。犠牲を払っても得たいものにはそれだけの価値がある。あるいは自分にとっては手ごたえのあるものになる。漠然と半端なものを集めるよりは、そっちのほうが良いと思わないか?」
「ええ、確かに」
「そう。じゃ、腹据えてかかることです。しばらく本当の孤独を味わうのいいかもしれません。では。」
「孤独?あっ、『タンポポ』も好きな映画です・・・」

うむ、脳内で会話してみたが伊丹さんとはあまり上手くいかなかったな。
単純に伊丹さんのことをよく知らないだけかもしれないが。



だめだ、無意識が荒れている。
雨のせいか?