天災

結婚式の二次会に向かう途中、赤羽駅で電車を降りた直後に、やつが来た。
走りさる電車が、電線との接触部分から青い稲光のようなものを発していたときは「随分ガタが来てる車体を使ってるな、まるで発展途上国の駅で見るような風景だな」と違和感を覚えただけだったが、目の前の喫煙所にいる男性がカバンを頭の上にのせているのを見てさらなる違和感を覚えた2秒後に、事態を理解した。

地震だ!

すぐに男性をまねて、かばんを頭のうえに持っていく。
しかし、揺れはおさまらない。
ふと上を見上げると、がっしりとした屋根が見える。
こんなのが崩れてきたら、このナイロンのカバンでは無理だろう、と思いつつも落ちつくまでは面白いのでカバンを頭にのせていた。

しかし、面白がっている場合ではなかった。
なんと電車が全線止まってしまったのだ。
二次会の開始時間には余裕でつくように家を出たが、これでは間に合うかわからない。
携帯電話もメールも混雑の為、つながらない。

こんなときどうすればいいのか?
じっとしていればいい。
ということで、ベンチに腰掛け、連絡メールを幾つか送る(送ることはできた。受信はなかなか出来なかった)。
そして、IPODなんぞを聞きながらタバコをすう。
曲目はアンビバレント系(?)。
ジム・オルークの「ユリイカ」が一番、風景にマッチした。
慌しい構内、埼京線に溢れかえる人の群れ。
を、見ながら自分はひとりドンドン自分の内部に潜行してゆく感覚があった。
うむ。
災害時に、一番に死んでゆくタイプかもしれない。
地震を面白がり、その後の状況に適応しようとせず、ヘッドフォンで自分の内部に潜行する種類の人間は、サバイバルには向かない。

というのは、さておき、結局仲間と連絡が取れたため、とりあえずは会場である麻布十番にむかうことになった。自分は、この後の混雑を考えると、非礼を犯してでも帰りたかったのだが・・・

まず、すし詰めの埼京線で池袋にでた。
池袋駅は、赤羽以上の混雑・混乱ぶり。
JRの自動改札は、災害時ということで、完全に開放し、ある意味、乗り放題となっていた。

つぎに、早めに復旧した丸の内線に向かうも、あまりの混雑の為、気分が悪くなり、撤退。
つぎに、埼京線で恵比寿を狙うも、通勤ラッシュよりもひどい混雑で、ぞっとした。
前のほうに並んでいたのにも関わらず、田舎者には無理やり体をねじ込む根性があるわけでもなく、簡単にはじきとばされ、撤退。

結局仲間が3人池袋に集まった時点で、タクシーで行くこととなった。
そして、着いたのは二次会終了30分前。
麻布のおしゃれなレストランバーは立食形態のため、食べ物はもはや溶けかかったアイスしかなかった。
が、きっちり会費8000円はとられる。
そして、祝いの言葉をかけて2,3分話し、ビールを2杯飲んで撤収。
到着まで約5時間かかったわけではあるが、まあ祝いの気持ちを伝えられただけでも義理は果たせたし、よかった。

それよりも惜しむべきは、参加していた女性のレベルが恐ろしく高かったことだ。
開始時間から参加していれば、もしかしたら素敵な出会いが・・・
無いとは思うけど、しかし綺麗な人が多かったな。

その後、復旧した地下鉄で帰る。
しかし、地震の余韻で結構混んでいたので友人宅に泊めてもらった。

ワンルームのマンション。
友人とオレ。
そして、なぜか友人の彼女。
うむ。
遠慮すべきだったかもしれない。
しかし、満員電車は吐き気をもよおすほど大嫌いなので、しょうがない。
カップルが同じベットで寝ているのを横目に、ソファを借りて就寝。
天災のせいで、長い午後だった。
そして、最後はオレが天災になっていたのかもしない、などと考えながら眠りについたのでした。